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「商品の間口を広げる」取材先:HELP一乗寺店 さま(小売店/京都)

「商品の間口を広げる」

       聞き手:山口 麻那@ハンサムガーデン

2025.10.17


  


 HELPは、有機野菜や魚介類、食品添加物を控えたパンや調味料をはじめ、からだへの害が少ない日用品や化粧品までを幅広く取り扱う、京都の地元密着型の小売店です。京都府内に3店舗(一乗寺店/長岡店/洛北阪急スクエア店)あります。

 今回は一乗寺店にて、農産部門の商品を管理されている田中雅大さんへ、野菜の仕入れに関するお話を伺いました。


ーーーーここからは、田中さんとのインタビュー内容が続きますーーーーーー


山口:今はどういったお仕事をされていますか。


田中さん:主に、本部にて仕入れを担当しています。

「各生産者から、どんな野菜を仕入れて、3つの店舗にどう分配して販売してもらうか」みたいな事項を決めています。

さらに、宅配事業もやっており、同様の判断をしています。ちなみに、仕入れる商品は、全部で 20個ぐらいの部門に分かれていて、自分の担当は野菜と果物、米、あとは卵などです。


山口:それで宇陀の生産農家も、田中さんの仕入れ先の 1件なんですね。

田中さん:その通りです。

山口:ありがとうございます。


ーーーーーーーーーー


山口:仕入れについて、近年の気候変動の影響を伺いたいです。

例えば、作物の仕入れが不安定になるなどして、仕入れる量の調整に難することはありますか。


田中さん:実は、そもそも僕らは調整ができないんです。

一般的なスーパーでは、市場に行って仕入れるんですけど、市場っていうのは、集まってきた野菜に対して買う買わないを決めるじゃないですか。


 でも、僕らはオーガニックだったり、その特別栽培とか減農薬の野菜を扱います。だから、農産物での契約というよりは、生産者との契約になるんで、誰でも良いわけではないんです。その契約した人からしか仕入れができないんです。


 要するに、とても暑くて取れませんでしたってなったら、その人からも入ってこないし、その場でこうじゃあ誰か持ってないかなって探してもなかなか見つからなかったりします。だから、例えばレタスの場合、〇〇の地域とか、〇〇の時期のレタスが少ないと分かれば、その時期でもレタスを出してくれる生産者を探すことにします。


 そこで、宇陀のハンサムガーデンさんを選びました。

ここは、結構特殊な作り方されていて、年中レタスを出荷されていますが、本当は非常に難しいんですよ。他ではなかなか見当たらないので、結構貴重な存在です。


一般的に、レタスの場合、多分 11月ぐらいから、まあ 3月 4月ぐらいっていう流れが一番多くて、春 なら5月ぐらいまで出されるくらいかな。

傾向として、涼しい時期に作られる方が多いんです。夏場なら長野県や、最近だったら北海道もありますが、京都からは遠いです。

なので、1箇所で、特に関西から近い地域で、年間通して作ってる人は珍しいですし、さらに有機なら、なおさら希少です。だから、オーガニックで作られてるってことであれば、ぜひお取り引したいです。


山口:そう言っていただきありがとうございます。今のご説明は大変分かりやすかったので、仕入れの全体像がよく理解できました。


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山口:田中さんが初めてアルバイトとしてHELPでお勤めされたのが高校生の頃ということは結構前(20年前)になると思うんですけども、当時は「有機」や「安心安全」といった概念は、どの程度の認知だったんですか。


田中さん:僕自身は、学生の時は、単純に地元のアルバイト先として来たので、別にオーガニックという概念に当時は全然興味がありませんでした。お店のHELPとしては、今 44年目になるので、 44年前からそういう「有機」や「安心安全」と言った路線で店舗の運営をしています。

 

 業界としては、1975年頃からで約50年ですね。当時、有吉佐和子複合汚染という本や、レイチェル・カーソン沈黙の春』という本が話題になりました。これを機に、経済発展がもたらす弊害に対して危機感を持った人が現れました。

 要は、戦後30年あたりの時期は、公害問題が出始めた頃だったんです。当時は、経済成長の真っ只中で、農業社会から工業社会に変わっていく段階でした。いま紹介した本などをきっかけに考えを改めた人が出始めて、その辺がオーガニックの走りなんですよ。


山口:そうなんですね。有機野菜は10年ほど前から認知度が広まった印象がありますが、流れの大元は公害問題だったんですね。初耳でした。


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山口:個人的には、現在の日本社会では、今も有機野菜に対する印象や認知度は、人によって温度差が激しいと感じております。

田中さんは、この件についてどう思われていますか。


田中さん:実際、オーガニック業界は、売り上ベースのシェアが全市場のうち 0.6%って言われています。10年ほど前で 0.4%だと言われていました。それだけで見たら 1.5倍になってるじゃないかってなりますが、あくまでも 0.6%なので少なすぎます。例えば、京都市の人口は130万人です。その中では約2万人しか利用しない計算になります。


 つまり、現状オーガニックに興味がある、もしくは、オーガニックをちゃんと利用していこうと思う人は、日本だと 1000人中まあ6人ぐらいしかいない。数も増えていない。一方、ヨーロッパでは 10%ぐらいある国(オランダやドイツ等)があります。


 ちょっと前なら、国は 1%にしようっていう政策を掲げました。

しかし、なんと今は、この「オーガニックビレッジ宣言」の政策と共に、 2050年に25%に達成するという目標を掲げました。でも 今0.6パーセントですからね。全然桁が違います。


 先々どうしていくのが良いのかな、という疑問を日々抱いています。


山口:そうなんですか。「オーガニックビレッジ宣言」がその話題に繋がるのですね。あと、0.6%ですか!今聞いてて驚きました。そんなに皆さんが利用されていないということは、自分自身と世間一般で価値観に激しい差があるんだと痛感しました。食や農業について、周囲と話が合いにくいのも納得です。


ーーーーーーーーーー


山口:では、現在HELPに来店されるお客さんは、どういった意識の方が来られていますか。


田中さん:以前アンケート取ったことがあって、大半のお客さんの共通点は、健康志向な人です。特に、昔から利用していただいている方は傾向が顕著です。


 他には、女性の方が妊娠して、しばらくお子さんのために良いものを食べようという意識の方が見られます。例えば、その子供さんが生まれて、母乳で育てる時は良いものを食べようとか、最近は助産師さんの指導があって買いに来ていただいたりとかもあります。あとは、味重視の方で、有機は美味しいからという方もおられます。


山口:そうなんですね。

わたし自身も、HELPさんのような有機野菜や健康志向のお店に行きますが、困ったことに、そういったお店で働かれている方でしたり、お店に通われるお客さんとは考え方が合うのでお話ができますが、学校で出会う人とお話すると、考え方が極端に分かれることがあります。

 

 何となく二極化している印象があります。そういう志向のお店を使ってるか否かで、その人が日常で得ている情報や、意識してることが全然違うと感じておりまして、どうすれば双方が歩み寄れるのかと日々感じております。田中さんは、オーガニック業界でお仕事される中で、この点についてはどのように意識して対応されていますか。



田中さん:うちは間口が広い感じなので、オーガニックに興味がある人だけじゃなくて、そうじゃない人もなるべく入りやすいように販売商品を工夫しています。具体的には、無農薬野菜だけじゃなくて、「特別栽培」っていう、農薬や化学肥料を半分以下に減らしたものも扱っています。


 というのも、やっぱり有機野菜は値段が高いので、経済的な理由でそういう食材にお金をかけるのが厳しいという方もたくさんいらっしゃいます。


 そこで、「特別栽培」なら価格的にも多少安く出せるので、これらも扱うことで、なるべく商品の選択肢を広げられる工夫をしています。

だからこそ、ぜひ色んな方に来ていただきたいです。


 皆さんには、

①まず、手が届きやすい特別栽培の野菜を実際に買って食べてもらって、

②そこからオーガニック業界により関心を寄せるようになり、

③将来的には、ご自身が進んで深い価値や重要性に気付かれる


みたいな流れができたら、双方にとって良いなと思っています。



山口:なるほど、初めはお店側が意識して動線を引いて、一般の消費者がオーガニック業界を受け入れやすいような環境へ整えているのですね。

また、特別栽培や減農薬野菜ならではの存在価値があるとは、新たな視点でした。


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取材を終えて

山口


 インタビュー全体は2時間にも及び、消費者からは見えない、有機野菜の販売現場ならではの貴重なお話を多々伺えました。

 特に印象深かったのが、減農薬(減化学肥料)野菜を仕入れる際に、各お野菜ごとに、栽培に使用した農薬や化学肥料の種類/使用量を調査し、行政のHPで公開される慣行農法の標準使用量との比較まで行うというお話です。この比較で、5割減以上のお野菜を販売するとのことでした。このような大変な工程を経て、我々が安心してお野菜を変えているとは、感謝の気持ちでいっぱいです。

 また、お店は地域のコミュニティーを意識しており、地元の他の食品店の商品も並べるなどして、販売商品の幅を広げるとともに、地元の方の活躍の場を提供されているとのことでした。

 普段、HELPさんのような自然食品を中心に扱うお店でお買い物をする際、販売側の背景を知れたからこそ、また別の視点からお買い物を楽しめそうです。


HELP一乗寺店 田中雅大さん 

貴重なお話をしてくださりありがとうございました。

これからも、奈良県宇陀市の農産品をどうぞよろしくお願いいたします。


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【取材先】

HELP一乗寺店

〒606ー8185

京都市左京区一乗寺高槻町6

営業時間 AM10:00〜PM7:00(毎週水曜定休日)

電話番号 075−781−3150

公式HP       https://www.wakkakka.com/


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編集者:山口 麻那(大学生)

今年の夏より、ハンサムガーデンでインターン中。
  食と病気と政治の関係性を知り、
有機農業に深く関心を持った。
 
当イベントに携わる前は、農産品の商談会用チラシの
デザイン/構成を担当。



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