室生こども園 インタビュー
奈良県宇陀市・室生こども園では、園・地域・保護者・生産者が“オールワン”になって食育を推進。単にオーガニック野菜を使うだけでは、子供たちに本質は伝えれない。もっと幅広いくくりでの食育に取り組んでいます。
田んぼでの田植え、園の畑しごと、地元農家さんのオーガニック野菜の給食活用、季節体験(キウイ収穫)など、暮らしに根ざした学びが年間を通して行われています。「顔の見える地産地消」が、子どもたちの“食べる力=生きる力”を育て、家庭の食卓にも笑顔の連鎖を生んでいます。園長先生に、その実践と地域力について伺いました。
写真左から:栄養士の池住先生、室生こども園園長先生
Q1.室生こども園の子どもたちの“らしさ”は?
園長:とても人懐っこくて素直。年長の男の子でも「抱っこして」と来てくれる子が多いんです。地域のみなさんもよく声をかけてくださるので、自然と関わりに開かれた雰囲気が育っています。
「地域が当たり前に子どもに関わる」。その空気感が子どもたちの素直さを支えています。
Q2.“地域とオールワン”の象徴的な取り組みは?
園長:今年は地域のご厚意で、実際の田んぼで田植え体験ができました。泥に足を取られながら歩いたり、苗を植えたり。収穫も見学し、最後はおにぎりパーティーで“自分たちのお米”を味わいます。
園の裏手の畑も地域の方に教わりながら栽培。収穫したジャガイモやタマネギは給食で活用し、たくさん穫れた日はおすそ分けも。秋には園児の保護者さんがキウイ農家というご縁から、キウイ収穫体験を予定しています。「園児と一緒にやりたい」と地域側からの申し出が多いのが室生らしさです。
Q3.オーガニック野菜の導入で変わったことは?
園長:新しい食材に出会う機会が増え、食の世界が広がりました。週に数回はオーガニック野菜が給食に入ります。子どもたちは「今日のコロッケ、有機&自分たちでも堀ったジャガイモ?」など体験と給食がつながることで、食への興味が高まり、「食べてみよう」につながるんです。
写真:0歳児クラスさんももりもり!食欲旺盛です。
Q4.“楽しく食べる”ための工夫は?
園長:絵本を通した食育やミニ・クッキング、配膳位置や日本の食事マナーの声かけ、「この野菜にはこんな力があるよ」と栄養の話もします。目で見て、作って、味わい、言葉で理解する――五感を使って楽しく学べるようにしています。
写真:池住先生のカバンには食育マスコット、元気くんが常備。子どもたちの食がすすみます。Q5.地域連携を進めるうえでの運営の工夫は?
園長:年間計画は立てつつも、天候・収穫期・地域行事に合わせて柔軟に動かすのがコツ。運動会など動かせない行事以外は、“旬”最優先で予定調整します。コロナ禍で一緒に食べる機会が難しかった時期もありましたが、今後は地域の方と子どもが同じ部屋で一緒に食べることも実現したいです。
Q6.取り組みの手応えや、家庭への広がりは?
園長:「自分で作ったから食べてみたい」「美味しい!」という声が増えました。よく食べる子は活動にも意欲的で、遊びや学びにもつながります。保護者の方からは「家では食べなかった野菜を食べるようになった」「持ち帰った野菜で家族一緒に料理をした」など家庭の食卓の変化も届いています。
Q7.これから挑戦したいことは?
園長:まずは“地域と関係を続けること”を大切に。高齢化や感染症流行などで無理のない範囲を守りながら、地域の方と一緒に食べる場を少しずつ取り戻したい。園だけではできないことも、地域と一緒ならできる。この“オールワン”の輪を、ゆるやかに、でも確実に広げていきたいです。
室生こども園の調理員さんに聞く
〜オーガニック野菜と“みんなでつくる給食”〜
宇陀市の室生こども園では、日々子どもたちの健康を願って、地元の野菜をふんだんに使った給食が作られています。今回は、調理員のみなさんにもお話を伺いました。
写真:調理員の皆さん。とにかく職場が楽しい!とのお話が印象的。― みなさん、どのくらいこの園で給食を担当されているんですか?
それぞれ違いますが、5~10年と、それぞれ経験年数はバラバラですが、力を合わせて給食を作っています。
― 数年前からオーガニック野菜や地元野菜が給食に取り入れられていますよね。新しい食材に戸惑いはありませんでしたか?
むしろ嬉しかったですね。直接農家さん顔も見れて、持ってきたお野菜について熱く語ってくださってくださる。まるで我が子を送り出すように大切に育てておられるのが伝わってきて、その思いを子どもたちに届けたいなとモチベーションにもなっています。手間暇を超えるやりがいにつながっています。
― 有機野菜を調理するときに工夫していることは?
素材の味を感じてもらうように意識しています。オーガニックの人参は香りやクセもあって匂いから違うんです!好みが分かれることもありますが、『これが本来の味なんだよ』と使っている意味を自分たちでも解釈して使っています。」
「同じ献立でも、茹で時間を変えたり、葉と茎を別々に調理したりと、日々工夫を重ねています。」
― 子どもたちの反応はいかがですか?
「登園したときに『昨日のあれ美味しかったよ』と教えてくれることもあって、子供たちの好みも把握できますしすごく嬉しいですね。」
― 先生方との連携も大切ですよね。
「はい。先生が『乳児クラスのこの子はもう少し柔らかくしてほしい』『これくらいの大きさなら食べられました』と細かく教えてくださるので、一人ひとりに合わせた調理ができます。まるで専属シェフのような気持ちで関わっています。」
― 野菜はどのように届くのですか?
地元の農家さんが直接持ってきてくれたり、宇陀市さんが届けてくれたり。顔を出して届けてくださるからこそ直接声をきけるので一層作り手としても熱が入ります。
お米も室生の農家さんが育てたものです。生産者さんの顔が見えるからこそ、安心して子どもたちに出せるんです。
― 調理員さん同士の雰囲気は?
本当に風通しが良くて、とにかく美味しいを届けたいので、何回も味見をして『もう少し甘みが欲しいね』と意見を言い合える関係です。お互いを思いやりながら、納得するまで調整しています。」
「雰囲気が良いからこそ、美味しい給食になるんだと思います。」
写真:綺麗に食べた食器が帰ってくる時、よしっとガッツポーズです。
調理員さんの思いや工夫、そして農家さんや先生・子どもたちとのつながりがあるからこそ、室生こども園の給食は「温かさ」がいっぱい詰まっています。
毎日の「美味しい!」が、宇陀の未来を元気にしているのかもしれません。
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