大宇陀こども園インタビュー
「残食ゼロ」が日常になるまで
はじめに
かつて200名を超えた園児数は、いまは半分以下に。
現在は約80名、来年度は50名台へ――。人数は減っても、大宇陀こども園の園庭は、むしろにぎやかになっています。理由は、子どもたち自身が育てる小さな畑。地元の園芸店さんや農家さんとつながり、季節の野菜が芽を出し、背を伸ばし、食卓へ届くまでを“まるごと”体験できる場があるからです。
その結果、調理員さんが驚く「残食ゼロ」の日も珍しくありません。野菜が苦手な子が、ピーマンをおかわりする――。そんな日常が生まれるまでの工夫を、園の先生と調理員さんに伺いました。
園の空気と“チーム”の強さ
Q:園児数が減るなかで、いまの園ならではの良さは?
園長先生:人数がコンパクトになった分、先生同士も子ども同士も距離が近い。行事も横断で取り組めて、チームワークの良さが園全体の温かさにつながっています。
Q:園庭の畑はどんなふうに?
園長先生:園庭の一角に畑をつくり、年長さんを中心に水やりや観察、収穫まで担当します。今年は「自分が植えたい野菜」を子どもたちが選ぶ形にも挑戦。ミニトマトの世話から、玉ねぎ・じゃがいもの収穫まで、毎日の小さな変化が“学びの素材”です。
(写真:乳児さん用の畑。別に園児用の畑もありかなり本格的でした。)
地域とつながる“本物”の体験
Q:地域との連携は?
園長先生:地元の園芸店さんや農家さんに教わりながら、畑づくりや収穫体験をしています。畑で玉ねぎを1個ずつ抜いたり、じゃがいもを掘って持ち帰ったり。おじいちゃん・おばあちゃん世代の知恵に触れる機会にもなっています。
Q:絵本と食育の行き来も?
園長先生:「そらまめくんのベッド」「おおきなかぶ」など、お話に出てくる本物の野菜を見て、触れて、食べてみる。物語と現実がつながると、“食べてみたい”気持ちが自然に湧きます。
オーガニック×地産地消の導入と手応え
Q:宇陀のオーガニック野菜を取り入れてみて、現場の負担は?
調理員さん:形の不揃いはありますが、朝の下処理体制を整えれば問題ありません。むしろ“味の濃さ”“色の冴え”ははっきり違います。とくに人参は風味が段違い。葉物もきれいで扱いやすい印象です。ネガティブな印象はゼロ。手間より“おいしい”が上回ります。
Q:子どもたちの反応は?
園長先生:野菜含めて残食が本当に少ない。ピーマンが苦手だった子が、ある日“ピーマンマン”の読み聞かせに合わせた献立で完食して、そこから“好き”に変わった例もあります。給食のワゴンの音が聞こえると見に行ったり、早く給食の準備をして待ち遠しそうです。
写真:この日もみんな完食!給食用の器はピカピカでした!
写真:乳児さんも幼児さんも上手にパクパク食べ進めています。
「残食ゼロ」を支える、調理と声かけの工夫
Q:年齢に合わせた切り方・固さの工夫は?
調理員さん:1~5歳を同じ大きさにするのは無理があります。煮物は“つかみやすい厚み”、噛む力を育てたい日は“少し大きめ”など、メニューと発達に合わせて都度調整。安全第一のうえで、“噛んで味がわかる”経験を意識しています。
写真:調理員の皆さん。仲の良さが伝わってきます。Q:メニューの楽しさも?
園長先生&池住先生:カレーの人気は根強いですが、酢の物や煮物もよく食べます。同じ“筑前煮”でも地域名で呼び方を変えたり、関西になじむ「かしわの唐揚げ」と表記したり、言葉の工夫で親しみをつくります。
Q:声かけのポイントは?
園長先生:“食べなさい”ではなく、体験の記憶を呼び起こす声かけ――「この人参、みんなで育てた畑のだね」「今日のピーマン、○○くんが収穫してくれたよ」――が効きます。“自分ごと”になると、ひと口が前に進みます。
これから挑戦したい“季節の食育”
Q:今後、子どもたちに体験してほしい食材は?
栄養士の池住先生:春はスナップエンドウやそら豆の“筋取り・さやむき”。ふわふわの“ベッド”を触る体験は、きっと記憶に残ります。季節を感じる果物(いちじく、マクワウリなど)も取り入れたいですね。
写真:池住先生と元気くん人形。色んなアプローチで子どもへの食への興味を促します。Q:11月の畑・給食のイメージは?
園長先生:かぶ、さつまいも(追熟で甘さUP)、大根、白菜、小松菜など。畑と給食をぐるぐる回しながら、育てる→収穫→調理→食べるの循環をもっと豊かにしていきたいですね。
食育で育てたい“心”
Q:食育でいちばん大事にしていることは?
園長先生:丈夫な心と体、そして“感謝”。土と水、太陽、つくる人、調理する人、運ぶ人――“いただきます”に込められたたくさんの工程に気づける子に。嫌な記憶ではなく“おいしい記憶”が残れば、きっと大人になっても食べることが好きでいられます。
まとめ ― 小さな畑が育てる、大きな教養
園庭の畑、地域の手、絵本の世界、調理室の技。大宇陀こども園の食育は、日常のいろんな“点”を子どもたち自身が結んでいくものでした。人数が減る時代でも、目の前の野菜の色・香り・手ざわりは変わらない。
そして今日も、食器はきれいに空っぽ――“残食ゼロ”は、がまんではなく“好き”の積み重ねでつくられています。
コメント
コメントを投稿