宇陀市の私立「しらゆり保育園」は、園内に遊歩道で探検できる山、さらに釜土やピザ窯があり、自然保育を大切にしている「奈良県自然保育認証園」です。自然の中での遊びと、奈良や国産野菜にこだわった給食を軸に、子どもたちの“生きる力”を伸ばしています。毎日の「ラッキーにんじん」、調理員さんと園児が一緒に行う「給食放送」や「同席ランチ」など、園内のチームでつくる独自の食育が印象的でした。
園の概要と歩み
園長先生
「最初は一軒家で12名から始まりました。次に認可園、社会福祉法人を取得し、地域に密着した保育園を目指し日々子どもたちが自然の中で探求心、知的好奇心、五感の発達を養っていけるように体験活動を行っています。
「山を整備して、火を使った体験ができる場をつくりました。ピザ窯で焼いたり、釜でお米を炊いたり。まるで“園内キャンプ”です。」
写真:園庭の奥にある階段の先に広がる山!ぐるりと遊歩道になっていて、お山の上に釜土があります。食材のこだわりと仕入れ
園長先生
「野菜は基本、国産。奈良のものがあれば優先しています。地元の八百屋さんが閉店してからは、私自身が仕入れに行っています。売る人・買う人の関係づくりは情報と学びの宝庫。『今日は淡路島の玉ねぎで甘みを味わってほしい』など、仕入れを自分で行うことで旬もいち早く察知できます。園児の“食べる体験”を設計する意識で選んでいます。
栄養士・笹岡先生
「仕入れは週2回(火・金が中心)。不足分は調理員が柔軟に買い足します。いただきものの野菜や季節の山菜も献立に取り入れて、まるごと“地域の旬”を学べるようにしています。」
自然と“火”のある食育
園長先生
山でフキを見つける→調理室へ『お願いします!』→佃煮やおかずに変身。それをもって山でお米を炊いてみんなで食べる。その喜びは格別です。釜でカレーをつくったり、火を囲んで食べる体験は、食への興味と“自分でやってみる力”を育てます。
子どもは決して有機野菜だから食べるというわけではない。だからこそ、色んな側面で食への興味や感動を子どもたちに提供し食への関心を高めています。
園内連携の仕掛け:毎日の「ラッキーにんじん」
栄養士・笹岡先生
「毎日、どこかのメニューに“ラッキーにんじん”を入れています。ハートや星など型抜きで忍ばせて、年長さんが調理員と一緒に『今日の給食放送』で発表。『見つけたい!』『食べてみたい!』という主体性が自然と生まれ、苦手な子も一口に挑戦できる導線になります。地味に手間ですが(笑)、効果は絶大です。」
園長先生
「調理員さんが教室に入り、園児と同じテーブルで一緒に食べることも大切にしています。作り手の顔が見えると、子どもたちは本当に安心して食が進むんです。」
“残さない工夫”と柔軟な献立
栄養士・笹岡先生
せっかく宇陀市さんからオーガニック野菜を提供してもらっても、園児たちの口に入らなければ意味がない。食べづらいかもと思った日は味付けや形状を変えます。たとえば、酢の物が進まない日はサラダ寄りに、青菜は“少しカレー風味”に。『食べてもらえる形に変える』が基本です。『食べられた』という成功体験を積み、嫌いをつくらないことを最優先にしています。
写真:今日も子どもたちの器はピカピカ!綺麗に食べてくれています^^先生と調理員さんの工夫が子供たちの食欲を増進します。
オーガニック野菜の導入と継続
園長先生
「宇陀の有機野菜は月10日ほどは必ず取り入れてきています!(ほうれん草・小松菜・人参・じゃがいも・お米など)。子どもたちの反応も良いですし、調理員さんからもやはり味が違うと太鼓判です。課題は“継続の予算”。市の支援もいただいているからこそ続けられていますが、今後支援がなくなった時に地場×有機×国産の多様性をどう続けるか。『オーガニックだけが正解』ではなく、子どもが“野菜っておいしい・面白い”と感じる機会を増やすことが目的です。」
写真:調理員さんとの距離も近いのも特徴。一緒に給食のアナウンスを行います。
取材当日のラッキーニンジンの形はくまさんでした!
私立ならではのスピードと外部連携
園長先生
「私立の強みは意思決定の速さ。食育だけでなく、特色として少林寺拳法やリトミック、英語、ならサッカークラブなど地元の先生が園に来る形でカリキュラム化。学童も“第二のホーム”として続け、卒園児が小さな子に優しく関わる姿が日常です。保育×食×地域が循環することで、子どもたちの好奇心と自己効力感が育ちます。」
子どもたちの変化
園長先生/笹岡先生
有機野菜だと、虫を見つけても、『おいしいから虫も食べに来るんだよ』とポジティブに説明できます。保護者が農業をされている1人の園児が、この間畑でブロッコリーについていた虫を虫かごにいれて持ってきてくれました。そこから、子供たちの学びタイムスタート。この虫はなんていう虫だろう?と子どもたちの興味や想像力が広がっていく。食材の背景にも目が向がむき、子供たち同志で学びあう姿勢がほほえましいです。
園長先生
「自然あそびや食の体験が多い子は、挑戦する姿勢が強く、少々のことにくじけない。興味が仕事につながることもある。根っこを育てる保育を、これからも続けたいものです。」
写真:左からしらゆり保育園園長先生、栄養士:笹岡先生
しらゆり保育園の“食育ベスト5”
園内の山×ピザ窯×かまど:火を囲む“園内キャンプ”で米を炊く・ピザを焼く。
毎日の「ラッキーにんじん」:給食放送と連動し、苦手克服を“遊び”に。
“同席ランチ”:調理員×園児が一緒に食べて、作り手の思いが伝わる。
残菜の見える化&可変メニュー:その日の子どもに合わせて味・形を即調整。
地域とつながる仕入れ:園長自ら国産・奈良野菜を目利き。旬と出会う。
さいごに(編集後記)
園の山で見つけた“フキ”が、調理室の手で“おかず”に変わり、みんなで「おいしいね」と食卓を囲む。その一連の流れの中で、子どもは自然を尊び、地域を知り、食を好きになる。しらゆり保育園の食育は、単なる給食を超えて、確実に“生きる力”を毎日少しずつ積み上げていく、そんなエネルギーを感じました。
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