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こども園シリーズ-“ない”を武器に。園を越え、地域ぜんぶを教室にする食育への挑戦

 菟田野こども園インタビュー


-菟田野こども園の特色を教えてください。
園長先生:令和2年に認定こども園として新しくこの場所にお引越しをし、スタートしました。園自体のスペースは限られていますが、だからこそ地域とつながる工夫を続けています。お隣に小学校がある立地も強みですし、まちづくり協議会、民生委員、評議員さんなどとジャンルを越えて関わることで、園内ではできない体験を社会に広げて実現してきました。

写真:菟田野こども園園長の久保先生

「場所がない」だからこそ外へ出る。
学びの舞台を“地域全体”に拡張するのが、うちのやり方です。



―― 食育の取り組みで印象的な事例は?

園長先生:“食べて終わり”にしない設計を大切にしています。たとえばオープンスクール(地域に園を開く機会)では、子どもたちが育てたサツマイモをアレンジして“お店屋さん”として販売する模擬体験までやってみようと計画中。作って、食べて、さらにつくり手・売り手の視点まで踏み込むんです。

この発想の原点はかりんとう屋さんの見学でした。見学後、子どもたちが粘土で“かりんとう”を作って模擬販売までやってみたんです。すると、ただのお菓子が「誰かが作って売っているもの」として立ち上がる。子どもが家庭でその体験を語り、親子で実際の店を再訪する循環が生まれました。

―― 生産者やお店との接点づくりが巧みですね。

園長先生:はい。単に“材料として食材を取り入れる”のではなく、生産者・つくり手・販売の先のつながりまで一体感を持って体験させたい。去年は地域のうどん店(橋本屋さん)を題材に発展させ、今年は地域の畑のサツマイモ×バターのシンプルなおいしさを“販売体験”まで含めてやる予定です。

―― コロナ禍での変化は?

園長先生:クッキングなど“手を動かす食育”はしばらく止まっていました。特にここでは菜園スペースも限られているので、「園内で作る」に固執せず、地域連携で体験値を補う方向へシフトしました。

―― 子どもたちの“食べる力”はいかがですか?

園長先生:よく食べます(笑)。この地域は同居世帯が多く、おじいちゃんおばあちゃんの畑の野菜が身近なんです。日頃から“土の匂いのする食材”に触れている実感が、好き嫌いの壁を下げていると感じます。さらに夏バテ知らず。食欲も落ちずにモリモリ食べ基礎体力も高いです。


写真:調理員のみなさん。若手のスタッフさんで創意工夫しながら作られています。

―― 地元・有機野菜の導入に関してどう思われましたか?


園長先生:自然が豊かな地域だからこそ、給食は有機や地元野菜を使うべきという思いがありましたので、導入が決まった時は嬉しかったです。宇陀市の方針のおかげで地元の農家さんの野菜を取り入れれていますし、今後も生産者訪問や見学も続けたい。園での体験を家庭につなぎ、スーパーでの会話が「この前見た〇〇さんの野菜はこんなんだったよ」と広がっていくと最高です。子どもが“家庭の先生”になる瞬間が増えるのは、食育の理想形ですね。

子どもが体験を家に持ち帰り、家族を動かす。
その“逆流”こそ、地域を巻き込む食育の醍醐味。

―― 地域連携の最近の動きは?

園長先生:令和6年度から本格化させ、民生委員さんやまちづくり協議会の皆さんに園へ来ていただく機会を増やしました。小学校との往来も活発です。作品づくりは0〜5歳までの全園児が関わる共同制作として取り組み、人権フェスティバルなど地域行事にも出展。終われば園内に飾り、オープンスクールで幅広い方に見ていただいています。

写真:栄養士の池住先生と元気くん人形。子どもたちの食べっぷりを見守っています。

―― 今後、挑戦してみたい・予定していることは?

園長先生:地域には畜産農家さん(牛の繁殖)もおられます。“命と食”の連続性を学ぶ上で、動物に会いに行く体験も大切。園内の限られたスペースは変えられないけれど、地域に出れば体験は無限です。職員は若手も多く、年間計画で無理なく現場と対話しながら進めます。楽しいことは“負担なく楽しく”が原則。そこを外さず、食を軸にした学びの線を太くしていきたいです。



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