小農の直売所での売り方のススメ
聞き手:窪 一@NPO法人ハンサムガーデン 2025.10.02
経験の浅い小さい有機農業の販路を考えると、手持ち野菜を農家都合で出荷できる近場の直売所は魅力的である。宇陀市には都市部への流通を担う複数の直売所運営会社が集荷場を設置していて、出荷しやすい環境が整っている。
その直売所経営を12年で8店舗まで展開されてこられた佐藤義貴社長に同社「旬の駅」を小農がどう活用してゆくと良いものか、彼なりの活用術を聞いた。
-佐藤さんが旬の駅を始められたのは奈良市のならやま店が最初ですよね、そのあたりを含めてここまでどういう経緯で展開されて来られたのですか。
社会福祉系の大学を卒業してから、税理士法人に勤めたんです。その後29才の時に五島列島に移住してアグリコーポレーションという会社を起業、2013年に株式会社フォレストファーム社の一号店ならやま店をオープンしました。最初にオープン前に窪さんにセミナー「引っ張りだこになる販売員を目指セ」を指導して戴いて、現在はですね、8店舗になっています。そして来年は2店舗増える。大阪市内にも1店舗契約しました。
-そんなセミナーもやりましたね。ちなみに現在、お取引農家さんは何軒くらいあるのでしょうか。
昨日時点ですが、3,807軒の農家さんとお取引させいて戴いています。だいたい1店舗あたり500軒の農家さんを確保しないと棚がなりたたないです。来年2店舗増えるわけですから、あと1,000軒ぐらい取引体制を強化しないと成り立たないのです。
-あくまで出店は京都・大阪・奈良ですか。このエリアに絞っていかれるんでしょうか。
出店戦略は例えば奈良の本店、ならやま店とか京都滋賀のように産地を取りに行く感じで展開を見ているんだけど、農家さんが売上をがっつり取りに行ってもらえるような視点でみると意外に田舎と都市の間がねらい目のゾーンだなと思っています。そこに大型店を持って行って農家さんの販売網を増やしてゆくイメージを軸にもっています。
そこに別路線で、イオンやララポートのような商業施設に場所を確保して都会に喰い込んでゆく。これは野菜の中継網をつくってゆく上で必要な戦略でもあるんです。
-そうした売場の拡大をアーリーステージの農家さんはどのように活用してゆくと良いかアドバイスはありますか。
8店舗あるわけなんだけど、一つの集荷場(宇陀なら比布の24時間集荷場)に出荷してもらえれば全店に届く当社独自配送がネットワークされています。
まぁ年間の売上が300万円から600万円くらいの売上農家さんは一人でやっているとか奥さんと二人というパターンなので、その出荷量だと、8店舗のそれぞれの特性を見て出荷して戴ければ、全然売上作ってもらえると思うんです。
だいたい8店舗の個性を知って、出荷を工夫して付き合っていただければ、年間一千万は全然とれて戴いてます。実際に僕らに付き合って下さって、だんだん成長したプレイヤーは当たり前のように見てきました。果樹で成果を出される方をいくらでも見ているし、もちろん野菜でもそれくらいいかれる方がゾロソロいる。
えっと、何年か前から4年前か、年間1000万円売り上げた生産者に金のバッチを渡して、500万以上をシルバーバッチ、300万円以上がブロンズバッチって渡しているんです。それをしたから何か特典があるわけじゃないんだけど、出荷場に農家さんに必ず被ってもらう出荷者帽子にこのバッチをつけて入場してもらう。僕らの取組で御自身が実現した証だから堂々とつけてもらえています。この金バッチつけた生産者が店舗増えるとともに目に付くようになってきました。見ている僕らも、それを誇らしく思うのです。
-ブロンズの方やシルバーの方とゴールドの方の違いは何でしょうか。
まず、アーリーステージの農家さんというのは、いうても小規模で、必ずしも若いとはかぎらない。定年退職された方とか、急遽実家の農業を継がれた方がどちらかといえば多い。出荷者には法人農家さんもおられるんですが、ぶっちゃけアーリーステージの個人農家さんの出荷スタイルがフレキシブルで需要変化に素早く対応いただけているようです。定年退職して農業始めたんやけどという人たちが、直売所を訪れる一般のお客様の「直売所って安くて新鮮だよね」というねらい目にヒットを飛ばしてくる。若い出荷者さんや法人農家さんは逆にこのあたりの現実を呑みにくいなって感じてますね。
-なるほど、人生を経てきた就農者の方が謙虚なのかもしれませんね。
うん。そこはもうバランスになりますね。だいたいクレームがつく野菜を出し続ける方は絞られてきてなかなか変わってくれない。アーリーステージの農家は技術力に乏しいわけですから、農協や一般商流に産品を流しにくい。そこを僕らのお店で工夫して出荷して戴けている。
だいたい奈良県の農地ってそんなに広くないから面積を追いかけにくいですよね。例えばサツマイモなんでもサイズを規格に揃えるってそれなりに量つくらないとJAや一般商流での出荷要求に間に合わない。仮に間に合わせると大量に作らないといけないから、ちっこいSサイズや2Lみたいなのが沢山できちゃう。これを僕らの店なら、1kgガサっと一袋にして300円くらいで売る。すると飛ぶように売れるんです。言葉通り、飛ぶようにです。
1kg、たくさん個数はいっていてお買い得感あるじゃないですか。葉物やったら、水菜なんか、来店されたお母さんにしたら鍋やサラダでがっさり嵩ましできるなら、ちょっと太くてもええやん、ってなる。それが出してゆけると、次に農家の名前を飲食店がすぐに覚えて客になってついてくる。
-他に奈良県でねらい目な野菜は何がありますか。
根気があるなら、ニンジンがホワイトスペースで、がら空きです。10年も前から僕は言っているんだけど、西日本でニンジンをがっちりやる農家さんが出てこない。
こうした野菜を見つけて、僕らと組めばもう入れ食い状態ですよ。アーリーステージの農家さんは実績や技術がないから、じゃぁやってみようとなっても中々に点が取れない。そこは苦労されるところですね。
-そうしたねらい目野菜をどう見つけたら良いのでしょうか。
はい、まず一つは当社のポジションで「農家御用聞き」という役職があります。いわゆる農家さんからの要望や栽培状況を聞く窓口みたいなもんなんですが、ここと話を密にしてもらう。次に各店の店長ですね、彼らと会話してもらいながら棚の状況や価格の動向を聞いて把握してもらう。僕らの側では社内で情報共有するアプリを使っていて店長からマネージャー、店頭パートさんまで全員が3807件の農家さんから得た情報を全員で共有する仕組みを使っている。農家さんから「こんな野菜が大量にできてしまいました」といった情報はこのアプリを使い8店舗で共有して、各店長からうちはこんだけ取りますだったり、社員からこれください、こんなのありませんかだったりが飛び交います。このキャッチボール網に農家さんも入ってもらって記録つけてもらうとホワイトスペースを見つけてもらえる。
-あとプライシングについてアドバイスはありますか。
あぁ、値付けね。まず、配信している価格動静を把握して、売れる値段を追いかけてもらうところから始めてもらうといいと思います。あとつい紋きりに「200円」とか値付けされるんだけど、そこから1円ひきましょう。199円と200円では売行きがちゃう。
あと、消化率が8割なんだったら、1割価格を下げてみる。そうして売り切った方がてもとに金が残ると思います。
お客さんから見た直売所の良さって、自分で農産物をより畑に近いところで「選んで」買った、そしてそれを料理したら「美味」しかった。こんな体験を楽しんでいる。だけど、多くの出荷者さんが横の値段みて横並びにしたがる。価格って毎週結構動くから、相場表みながら手をだしてもらいやすい値付けに時間をすこし使ってみて欲しいですね。
-これからの事業構想を教えて下さい。
来年2店舗オープンすることは御伝えしましたね。あと来年1月、五島(長崎県)にユースホステルを改装してホテルIMOっていう宿泊施設を開業します。あと20フィートの釣り船もあってね、こうしたモノをなんで僕らがワザワザやるのかっていうと、行政の方も含めて毎年300名くらい取引先の方々が五島に来て下さる。みんなで釣りをして泊まってもらって釣った魚を料理して楽しむ。みんなで仕事もガンガンするけど、楽しむのも一緒にやる。そうした繋がりのわっかが噛み合いだすと、仕事もうまくゆくようになってきました。こからの時代、販売も農業も流通も自社だけって組立は10年ももたないと思っています。人口も少なくなってゆくし、農業やったり食品加工やったり、アクティビティやったり、住まうことを提供するって大事だと思うんです。ここを魅せることで採用して人を育てて目標へむかう。それを僕の代ではやりきりたいと思っています。
ー本日は有難うございました。
取材残心
12年で大型の直売所を8店舗に展開された佐藤社長の経営手腕と謙虚な人柄はまぶしい。佐藤社長は見方によってはミステリアスでありかつ事業をドライブする商人の迫力はもちろん、どのように農家と産直事業の折り合いをつけるのか苦労の思索がつむぐ言葉のあいに滲む。インタビュー中、アーリーステージ農家が必ずしも若手ではないという現実に旬の駅が農家つきあい戦略の柱を据えている点と、彼らのモチベーションコントロールへの配慮は興味深い。インタビュー記事をどうまとめるか悩んだあげく、納期に追われ、ほぼ佐藤社長の口調を文字へ落として投稿することにしたのは、彼の労苦を読み手が感じてもらえるのではないかと思った故のことで、稚拙な構成は、ほら、どうか御海容くださいませね。
宇陀小農の販路を考える(1):直売所リーダーが語る小農のための「旬の駅」活用術 -了-
記事:窪 一 (所属:NPO法人ハンサムガーデン)
メール:jim@handsomegarden.com
就農17年目の一年中レタスを出荷する農家。
小農的オーガニックは生化学でも経営学でもなくて
キッチンと食卓にあるものだが信条。
本事業では広報を担当。
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