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「“つくって終わり”にしない。顔の見える給食で、地域と子どもをつなぐ。」 — 現場のキーマン辻さん × 管理栄養士・松生さん

インタビュー|宇陀市 学校給食センター

(写真:給食センターの皆さん)


Q. 新しい給食センターになって1年。“ただの施設にしたくない”とは?
辻さん

「調理ラインを回すだけなら、規格のそろった食材が一番ラク。でも、それだと地域の野菜が入る余地がなくなる。だから委託業者さんとも腹を割って、“どうやったら地元を入れ込めるか”をこの1年、ずっと議論してきました。形が不揃いでも、切り方や仕込みの工夫で『使える』に変える。現場の知恵の積み重ねです」


Q. 地産地消率は46%。数字の裏側を教えてください。
松生さん

「献立は栄養価だけじゃ決めません。昨年の入荷や旬の波、農家さんの作付けから逆算します。ひとりでは難しい量も、10軒から少量を集めれば大きな力になる。今学期は46%まで来ました。現場の手ごたえは『50%、見えた』です

辻「数字は通過点。大事なのは農家—調理—子どもが顔でつながって“愛着”が循環することですね


Q. 有機農業の野菜を取り入れる意義は?
「“有機だから良い、慣行だからダメ”ではないんです。大切なのは**『誰が、どんな思いで作っているか』。実際、有機認証を取っていなくても、農薬を極力使わず工夫して栽培している農家さんはたくさんおられる。僕らは農法の違いで線を引かず、同じ地域の仲間として尊重しています」

ただ、有機栽培は未来への投資でもあります。子どもたちが食べる環境を守ること、農家さん自身の健康を守ることにもつながる。そういう想いを子どもたちに伝えながら『食べることは未来を選ぶこと』って感じてもらえたらと思っています


Q. “顔の見える給食”は、どう現場を変えましたか?
松生さん「私含めての管理栄養士は畑へ行き取材を行ったりしています。土の匂い、手間の話を聞くと、下処理や献立づくりにも熱がはいります。

辻さん

学校には農家さんをゲストに呼んだり、子どもたちからランチレターで感謝が返ってくるという企画も行っています。農家さんのお話や取材動画を見て『ピーマン嫌いだったけど食べられた!』って。作業が“使命”に変わる瞬間です
きゅうりのトゲ、朝採れの香り。市場ものとの鮮度差を体で知ると、火入れや味の決め方も変わるんよ


Q. それでも地域100%にはしない? “50/50”の理由は。

「止めない給食が最優先。災害や不作もある。だから地元ファースト×市場補完の50/50が現実解。地元を守りつつ、供給の安全網を張るんです」


Q. 次に超えたいハードルは何ですか?
辻&松生さん

保管インフラができたら面白いですよね。じゃがいも・玉ねぎ・人参、それぞれ最適温度が違う。低温保管設備が地域に整えば、春の収穫を半年活かすこともできます。
“やる”を続けた先に必要な設備が見えてくる。結果を積んで、次の設計に反映させたいです。

お2人の熱いまなざしの先に見えたのは、
“農法の違いを超えて、思いでつながる給食の姿でした。


写真:この日の給食は有機玉ねぎたっぷり牛丼

写真:たくさんの調理員さんが、阿吽の呼吸で進めていってくれます


生田 ゆき
ロート製薬株式会社
8年前に東京から単身で宇陀市に移住し気がついたら現在第3子妊娠中。
母となりより食や環境保全の重要性を再認識。
SNSや広報担当として有機農業の魅力をお伝えすべく奮闘中です。

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