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 「偶然であり、必然。」——宇陀オーガニックビレッジの3年、そして次の10年

写真左から:宇陀市農林課:井上さん、山口農園代表:山口さん、類農園(インタビュアー):桑田、奈良未来デザイン:吉村さん


対談インタビュー:宇陀市役所 農林課・井上さん/山口農園 代表・山口さん/奈良未来デザイン(有機米)・吉村さん

インタビュアー:類農園・桑田さな

全国初の「オーガニックビレッジ宣言」から3年。勢いで火をつけた1年目、設計で磨いた2年目、そして“面”で進む3年目へ。行政・農家・企業が点から面へとつながり、偶然の出会いが

必然の動きに変わっていく——。宇陀の現在地と強み、課題、そして今年のフェスの見どころを3人に語ってもらいました。

宣言は“ゴール”ではなく“合図”だった

Q 1年目、オーガニックビレッジ宣言(以下ビレッジ宣言)やフェス発足と全てが初めてでしたが、どのような想いだったのでしょうか。

山口:全国で一番に宣言する——そこに強い意味がありました。

そして「宣言して終わり」ではなく、形を残し、継続すること。だからこそ1周年でフェスを立ち上げたんです。合言葉は「全国一番」。あの言葉は今も大事にしています。

最初は綿密な計画というより“火を点ける”。勢いで形をつくったからこそ、次につながりました。

今でこそ徐々にオーガニックの理解は業界的にも進んでいますが当時はいばらの道でもありました。

その一つのエピソードとして、有機ロス野菜から開発した緑の墨汁「抹菜」で市長に書いて頂いた「全国初オーガニックビレッジビレッジ宣言の街 宇陀市」の書を、東京での初出展でお披露目だったたのですが、当日行方不明になるということもあり…良くも悪くも注目も反響も大きかったと思います。



勢いから設計へ——2年目で“段取り”を手に入れた

吉村: 2年目は年間タスク設計と進行管理を徹底していきましたね。映画上映や一般向け体験ツアー、新規就農相談まで、点在していた企画を一本のストーリーに束ねました。これが今年の運営の骨格になってるんじゃないかな。

井上 視察も増え、じゆうだテラス(駅前の宇陀市アンテナショップ)の週末マルシェなど販路の窓も今年から整備してきましたし、仕組み化が徐々にできてきていますね。

「人の想い」が町を動かす——ピースがはまる瞬間

山口 今までだったら、各々企業や個人農家は自分たちの事業活動にしかフォーカスできておらず、なかなかみんなで未来を向いて団結できていないのが現状でした。でもキーパーソンとの出会いが奇跡のタイミングで連鎖しました。各事業者・県・農政局、観光、企業、シェフ、メディア……。誰か一人熱い想いの人が欠けてたら、ビレッジ宣言も、このように継続運営もできていません。偶然であり、必然という言葉がしっくり来ます。

吉村 宣言を合図に、関係人口ももちろんですが、同じ未来を目指す仲間が企業や業種の垣根を超えて増えましたね



強みと課題——尖りは“オーガニック”、裾野は“多様性”

井上 宇陀の差別化はJAS認証を軸にした実装力。一方で、有機だけを絶対化しないバランスも必要です。

山口 新規就農の三つの壁(農地/販路/コミュニティ)は農業の共通課題。行政や地域が出口までフォローできる体制づくりがカギになってきます。

吉村 「オーガニックで尖る」一方で、農薬削減や持続的農業など多様なアプローチも巻き込む。線引きと見せ方を丁寧に設計しないと、期待とのズレやブランド毀損につながります。今後もこの部分は慎重に模索し続けていきます。

今年の見どころ(3本立ての“面”企画)

山口 今年は有機だけに閉じない参加の輪がポイントですよ!JAS認証保有者ではない、前向きな生産者も巻き込みます。

①生産者のリアル:若手—中堅—ベテランが収入や働き方までギリギリまで“踏み込んだ話”を聞き出します!また、就農は「ゼロから一人で」だけじゃない。雇用就農という道を選んだ若き農業女子もゲストに呼んでいます。

②消費者・使い手の視点:学校給食センター、アンテナショップの方にきていただき、“使い手や消費者が何を求めているのるかを赤裸々に語ってもらいます。

③来場者が主役の対話:会場全体での参加型セッション。ファシリテーターの腕の見せどころです。交流会で関係が続く設計にしていますのでお楽しみに。

井上 フェスではマルシェも開催します。なんと、市内の農家20戸も集結します。色んな事業者さんのこだわりを知れるチャンスです。

“みんなで出る”を大切にしながら、JASの価値も守っていく——線引きと共存の実験でもありますが、とても楽しみです。

継続の条件——“人に依存しない仕組み”へ

吉村 今は“全力投球”で走れているけれど、人が替わっても回る標準化(定番化)が必要運営フロー、出店基準、広報導線、評価指標までマニュアル化を進めなければと思います。

井上 今年、市役所としてはオーガニックビレッジ推進室ができたのは大きいです。専任の人をつけて予算化も行い、継続可能性を高める。今関わってくれている企業が「費用対効果」を感じられる枠組みづくりも前進させます。

山口オーガニックで尖る”旗は掲げ続ける。だからこそ、非JASとの共存設計が今後の肝になりますね。ブランドを守りつつ、面を広げます



ラストメッセージ

吉村 宇陀は“ガチで農業”の現場が主役。その泥臭さが、最高の魅力です。
山口 ピースがはまるとき、町は動き出します。今年も“偶然であり、必然”をつくりにいきましょう!
井上 ビレッジ宣言はのろしの合図。そしてフェスは毎年の軌跡であります。ここから先の10年を、みんなで作っていきたいですね!

編集後記

取材を終えて感じたのは、宇陀のオーガニックは“仕組み”ではなく“人の物語”だということ。
誰かの想いが次の誰かを動かし、点が面になり、偶然が必然に変わっていく。
宣言から3年——勢いで始まった火種は、今や静かに燃え続ける焚き火のよう。

情熱を「定番」に変えながら、誰もが輪に入れる町へ。
その中心には、やっぱり人の温度がありました。

そんな熱いメンバーが作っている、オーガニックビレッジフェス2025、乞うご期待です。

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